anriokabe.com / 短歌を詠む

2023.09.03
目覚めるとすっかり空は晴れていてわたしはなぜかまだ生きている
大きなる足が空からあらわれてわたしのことを踏みつけるかも
バラバラになってしまったわたしたちもともと同じ空をみていた
かけているメガネくもってしまうから前にあるもの何もみえない
人生の開始をつげるピストルは知らないうちに鳴らされている
ひとだけがうたっていない生きものがみんなうたっている公園で
この道をあるいてゆけばあの街にわたしはたどりつけるだろうか
2023.08.27
わたしではないわたしではないわたしではないわたしではないわたし
とげとげとしている声をとうとつに投げつけられて傷ついている
ゆらゆらと夜をあるいている僕のあとをゆらゆらついてくる月
サイモンとガーファンクルのハーモニーだけ残された夜へようこそ
まんげつのよるにひとりであらわれて空をみている地上でわたし
円環のなかに閉じこめられている街をひとりでまわりつづける
やなことはみんなわすれておふとんにくるまりながらよくねるの巻
2023.08.20
ぐうたらのわたしが生きていることの証としてのぐうぐうおなか
むこうからくる風すべてうけとめてわたしの胸はまっさおになる
わたくしのわたくしによるわたくしのためのわたくしだけの晩餐
コンビニで買ったいつもの食べものを順番に胃にながしこんでる
ころしてもころしてもなおキッチンのどこかで孵る羽虫のたまご
生きているものたちみんなあつまって生きているこの今をたのしむ
みちばたに立ってるわたし数センチくらい世の中からういている
2023.08.13
空白にむかって傘をたんたんとふってしずくをふりはらいます
いつまでもしゃべりつづけているひとにわたしの時間とられっぱなし
はなしてる言葉はおなじはずなのに何はなしてるのかわからない
遠くまでわたしのことも連れてってくれないか吹きあれている風
暗やみをあるきまわっている僕のにぎりしめてるスマホのひかり
かえったらよく手をあらう手をあらうように教育されてきたから
人間が浮き輪にのってぷかぷかとプールのうえに浮かんでいます
2023.08.06
足もとを照らしていっぽいっぽずつ真っ暗闇を踏みだしてゆく
日のあたるところを避けてあるいてるような気がするもう何年も
いつかくるいつかくるってなりながらいつかくるのをいつまでも待つ
こんなにも雨がふったらこんなにも雨がふったらすべるじゃねえか
ねむいから寝るのではなく寝なくてはならないからという日の眠り
なつかしいひとからとどくなつかしい夏のにおいのしている手紙
真夜中のふたりだまってあるいてるカエルの声にかこまれながら
2023.07.30
たてものにたっぷり西日さしていてとてもノスタルジックな感じ
みんなからすっかり忘れられたまま道にぽつんとたたずむポスト
ロボットの手でつくられたおにぎりをつかんでレジへ運んでいる手
走るしかないのだろうよ走っても間にあわないとわかっていても
またおなじまっくらの夜やってきてハロー暗やみぼくのともだち
マイクから伸びているこのケーブルの先にはきっと世界があって
ぺちぺちとエレキの弦をはじいてる 蛍光灯はつけないままで
2023.07.23
もともとは森にわたしもいたのかもしれない鳥にかこまれながら
コンビニがあって近くにコンビニがあって近くにコンビニがある
ここにまだ家族がみんな住んでいたころからずっとある洋食屋
のぞみなし それでも僕は東京へゆきますのぞみ新幹線で
からっぽのわたしのなかに放りこむぎゅっと中身のつまったパンを
真夏日にのみほすポカリスエットはすこしプールの味がしている
うしろからフルスピードでやってきて追いぬいてった夏の少年
2023.07.16
おてんとうさまはさんさんふりそそぐ地を這っているわたしの上に
奥底へ落っこちてってしまうかもしれない足をふみはずしたら
倒れてるわたしのからだかろうじてひとのかたちを保ってるけど
こもってるわたしの家のいりぐちの壁にべったり貼りつくヤモリ
うすぐらい道をいったりきたりしてここまでやってきました僕は
うなだれて前をあるいているひとの後をわたしもうなだれながら
この島のバブルが空できらきらとかがやいていたころの音楽
2023.07.09
逃げられるわけがないのにいつまでも窓にぶつかりつづける羽虫
ここにまだ世界があるということを確かめあっているような夜
まっくろのひとつの影になりながらまだねむってる街をゆきます
くもってるレンズをつけてみていると世界はみんなくもってみえる
祈ってる いったい何に祈ったらいいのかもよくわからないけど
駅前のどこにでもあるコンビニにあるどこにでもあるものを買う
ほかにいくところもなくてゲーセンでふりまわしてる短機関銃
2023.07.02
あまりにも晴れているのであまりにも晴れているのであまりにも夏
こんなにも青々としているものをみせつけられている通学路
楽しくてたまらないのに楽しいとつたえるひとが隣にいない
むこうから低気圧またやってきているから僕のこころもくもり
ビリヤード場で僕たちおたがいの欠落を埋めあわせるように
耳の穴かっぽじってさ世の中のいろんな音をききにゆくのさ
ぺったりとしている朝をぺったりとはだしで歩きまわっています