2023.06.25
あといくつ積みかさねたら僕はあの星空に手がとどくのだろう
ちっぽけなパンをかじっているときのわたしのなかにあるちっぽけさ
都心までつながっている地下鉄のなかでたくらむ世界征服
顔色をたくさん読んでいるうちに自分の顔がわからなくなる
わらってる声が外からきこえてるけれどわたしはわらっていない
ひきだしの奥でしずかにねむってるむかし友だちだったひとたち
現実をログアウトしてバーチャルの世界を走りまわっています
2023.06.18
いまだけは平和であるということのチャーハンの味かみしめながら
火星からひとりぼっちでやってきたひとの気持ちになっている駅
大声で笑うひとたちむこうからおおぜいやってきてすれちがう
わたしには居場所がないということのさみしさおりてくる帰り道
ふるさとの訛りをなにも鳴らせない喉でわたしはなにを鳴らそう
わたくしのまんなかにある空洞をひとりでのぞきこんでいる夜
うまれつきうばわれている僕たちの手に人生をとりもどすまで
2023.06.11
だらだらと漫画を読んでいるだけの日がだらしなく閉じてゆきます
かなしみの処理の仕方をまちがえて茹でているものぐずぐずになる
つぎつぎとスマートフォンのなかにある過去の写真を消している指
クーラーのよく効いている空間ですました顔をしてすわってる
昨日まで友人だったにんげんが今日は他人のにんげんになる
暗やみはいつもやさしい嫌なことそっとみえなくしてくれるから
ベランダにとまるトンボが飛ぶことのできない僕をじっとみている
2023.06.04
家じゅうのあかりをけして外からのあかりをそっとうけいれている
すきまなく人間たちをつめこんで遠くへつれてゆきます電車
じっとりとひとりの夜をさまよって自分の影をじっとりと踏む
どこへ行くべきなのかよくわからないときにかぎって空は真っ青
感情をつかいはたしてぱったりとたおれてうごかなくなっている
ゆっくりとおやすみなさいこの星にうみおとされたすべての孤独
ふたりして笑ってふたりして泣いてふたりしてまた笑って泣いて
2023.05.28
昨晩の酒といっしょにのみこんだものをゆっくり消化している
すみっこにすわっています昔からそれがからだに合っているから
集まっているひとみんなみていますわたしのみえていない何かを
ポケットにあんぱんひとつ隠しもつことをひとつの秘密としつつ
影のあるところでずっと待っているその信号が青になるのを
ど真ん中 ででんとでかい水たまりあってわたしを通せんぼする
遠くからここまでやってきたもののそこから外にでてみると雨
2023.05.21
どのバスに乗ったら僕はふるさとをみつけることができるのだろう
ピヨピヨと鳴くのではなくピーピーと叫ぶんだなあほんとの鳥は
この街でそだっていたら僕もこの青さのなかにいたのだろうか
逆上がりできなくなったこの足でどこへと僕はあるいてゆこう
そこにあるスマートフォンのなかにあるものがわたしの世界のすべて
アルコール消毒された指さきでふれればすべて死んでゆきます
乗りものが傾くとその乗りものに乗っているひとみんな傾く
2023.05.14
蛾がこっち入りたがっているけれどいやだね僕は入れてあげない
大切なものからひとつひとつずつこぼれていってしまう手のひら
ごうごうと頭上を通りすぎてゆくたくさんひとを積んだのりもの
人間にうまれたことのたのしさとかなしさを噛みしめる居酒屋
風景のようにひろがるひとごみのなかでひとつの風景になる
ずっと雨ふっているからずっと家うつうつとしているずっと僕
まだ池にいるのだろうかザリガニとザリガニ釣りをしている子ども
2023.05.07
ぐったりとかえってくるとぐったりと玄関先で傘ぐったりと
ディストピアめいた夕日をつれながらゆっくり地盤沈下する街
標識のやつさっきからちらちらと見てきてなにか言いたげである
謎の目がいつも後ろでじろじろとわたしを監視しているような
こもってるうちに世界は春めいてあらゆるものが満開である
永遠にたどりつけない場所としていつもあそこにいるお月さま
物干しにつるされているTシャツもどこかへ行きたそうな土曜日
2023.04.30
夜中じゅうひとりぼっちのキッチンでまわりつづけている換気扇
太陽はあんなにあかく輝いてわたしをあつくさせているのに
ハブられてやめた部活のあとにみた夕焼けがまだ目のなかにある
後ろからつぎつぎひとがやってきてつぎつぎ僕を追いぬいてゆく
まっくろの闇がわたしのことずっと押しつぶそうとしている闇夜
灰色のものがたくさん駅前にあつまってきてあるいています
ないている声がしていてその声のほうをむいてもそこには誰も
2023.04.23
はりぼての駅ビルみんなぱたぱたと倒れてしまうかもしれないね
クリニカのキャップをあける音だけがひびきわたっている洗面所
まっしろのでっかい文字で止まれって書いてあるから止まるしかない
煮えたぎるそいつを火からとりあげてフライパンごと胃に放りこむ
ちゅーちゅーとツツジを吸っていたころの僕には生えていました翼
均一に照らされている顔たちのその目うつろにかがやいている
まだ僕がなめくじだったころのこと思いだしてる雨の地下鉄